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2021/08/31
相続人の中に判断能力の不十分な方がいたら?
こんにちは!
司法書士法人府中けやき共同事務所の秋池です。
日本のメダルラッシュで盛り上がった東京オリンピックが閉幕し、8月24日からは東京パラリンピックが開幕しました。
オリンピック同様に日本選手団を“おうち”で応援する日々が続きそうです。
さて、今月のブログは『相続人の中に判断能力の不十分な方がいたら?』と題し、相続と法定後見について取り上げてまいります。
皆さんの中には「おじいちゃんおばあちゃんが認知症になってしまった=法定後見」という考えもあるかもしれませんが、精神障害や知的障害等を理由に若くして後見人が必要になって来る方もいらっしゃいます。
判断能力の不十分な方を守っていくために、どんな手段を取ったら良いか? について分かりやすく解説してまいりますので、どうぞ最後までお付き合いください。
遺産分割協議が進まない⁉
上図の様な家庭で相続が発生したとします。遺産は不動産と預貯金があり、借金等のマイナスの遺産はなかったとします。
恐らく多くの方は預貯金口座のある金融機関へ出向き、凍結された口座の解約手続きを優先すると思いますが、遺産分割協議で「誰が相続するか?」が決まっていない状態では凍結を解除し、預金を引き出すことは出来ません。
そこで遺産分割協議を行うことになるわけですが、相続人の中に何らかの理由で判断能力が不十分な方がいた場合、遺産分割協議そのものが出来なくなってしまいます。
他方、不動産の場合は法定相続分通りに分割する場合は相続人一人からの申請でも名義変更は可能ですが、2次相続まで考えて特定の相続人へ名義を変更したいといった場合には、やはり遺産分割協議が必要となってきますので、相続自体進めることが出来なくなってしまいます。
この状態を解消するためには冒頭お話した法定後見(成年後見制度)を活用することになるわけですが、ここで法定後見とはどんなものであるのか見て行きましょう。
法定後見の手続き
法定後見とは本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度です。財産の管理や今回解説している相続に関する手続きなども“法律的な支援”に含まれます。
そんな法定後見ですが上図の通り、家庭裁判所への申立てから後見の開始までスムーズに手続きが進んだとしても2カ月弱という時間を要します。
また、必要となる書類も多くすべてを一人で行うのはかなりの労力です。参考までに申立てに必要な書類についてご案内します。
申立てをする裁判所(本人が多摩地区在住の場合)
東京家庭裁判所立川支部
申立てが出来る人
本人,配偶者,4親等内の親族※,成年後見人等,任意後見人,任意後見受任者,成年後見監督人等,市区町村長,検察官です。
申立てに必要な書類
提出書類確認シート
後見・保佐・補助開始申立書
代理行為目録(保佐,補助用)
同意行為目録(補助用)
申立事情説明書
親族関係図
財産目録
相続財産目録
収支予定表
後見人等候補者事情説明書
親族の意見書・記載例・親族の意見書について
本人情報シート(成年後見制度用)
診断書・診断書付票(成年後見制度用)
収入印紙(申立て手数料800円、登記手数料2,600円)
郵便切手(500円×3枚、100円×5枚、84円×10枚、63円×4枚、20円×5枚、10円×6枚、5円×2枚、1円×8枚)
裁判所HPより抜粋して引用
(https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/moushitate_seinenkouken/index.html)
多くの書類を準備し、家族の間で話し合う時間も必要ですので、今回の例の様に相続開始から後見人の申立てを行う場合は、書類不備等が無いよう専門家へ依頼することをおススメいたします。
相続放棄したい場合は?
今回の例では亡くなった方にマイナスの財産が無いため、相続放棄を選択することは無いですが、多額の借金が存在した場合は相続放棄を選択せざるを得ないケースも存在することでしょう。
相続放棄は相続があったことを知った時から3カ月以内に行う必要があります。
「手続きに2カ月弱かかるなら実質1カ月しかないの?」
と思うかもしれませんが、判断能力が不十分な方の場合は後見の開始から3カ月となりますので、期限まで実質1カ月ということはありません。
ただし、今回の例では配偶者と長女だけは先に相続放棄を行っておく必要がありますね。配偶者と長女が同時に相続放棄を行い、後見の開始を待って長男が相続放棄を行うという流れになります。
後見制度の注意点
後見制度を利用すれば確かに遺産分割協議自体は進めることが出来ますが、注意していただきたい点として、必ず本人が受け継ぐ遺産について法定相続分を確保する必要がございます。
後見人は判断能力が不十分な人を支援するための存在ですので、本人にとって不利益となる遺産分割協議を認めるわけにはいきません。今回の例で言えば、仮に母と長女の2人で遺産を分割し、2人で長男のフォローをしていくと決めていても法定相続分の遺産については本人名義とせざるを得ません。
また、後見制度は遺産分割協議が完了したからと言って終了するわけでもありません。本人が生存している限り続いていく制度ですので、弁護士や司法書士が後見人に選ばれた場合は定期的に費用が発生することになりますし、家族の方が後見人に選ばれた場合は費用の発生こそありませんが、後見人としての役割を長い期間果たすことが求められます。
法定相続分の確保や亡くなるまで後見制度は終わらないという注意点はあくまで後見人が選任されたらという話になりますが、場合によっては書類集めの段階で手間取ってしまい後見人の申立て自体出来なくなるという可能性も存在します。
必要書類の中に「診断書・診断書付票(成年後見制度用)」というものがありますが、これは医師に作成を依頼するものです。後見人を必要としている方の中には家族以外の他者との接触を拒んだり、“病院”という言葉に過剰に反応し行くことを頑なに拒否したりする方も少なからずいらっしゃいます。
こうなってしまうと必要書類がそろっていない状態ですので後見人の申立て自体が出来ませんし、裁判所へ「遺産分割調停」を申し立てたとしても、「本人が財産管理をすることが出来ない状態で後見人が必要な状況だからダメです」と言われてしまう可能性は非常に高いと言えるでしょう。
つまり、「家族の中に判断能力が不十分な人がいても、後見人制度で必ず解決出来る」というわけではないということになります。
では、今の内から出来る対策方法は無いのでしょうか? 実は、事前に出来る手段として遺言書を遺しておくという方法があるのです。
遺言書を遺す
既述の通り相続人の中に判断能力が不十分な方が存在した場合、遺産分割協議は進みません。そこで後見制度の登場となるわけですが、後見制度にも少なからず弱点が存在します。その対応策として、前もって遺言書を遺しておくことでスムーズに遺産を分割することが可能となります。
金融機関の凍結口座を解除することも、不動産の名義変更を行うことも有効な遺言書さえあれば出来ますし、何より遺された相続人へ負担をかけずに相続手続きを進めてもらうことが出来るのです。
ただし、遺言書を書くにしても「書く人が元気なうちに」という大前提がありますので、ご自身の家族の中に何らかの理由で判断能力が不十分な方がいらっしゃる場合は、早めに遺言書を書いておくことを強くおススメいたします。
どんな財産を遺してあげたらよいか?
いざ、遺言書を書こうと思っても誰にどの財産を譲ろうか悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
今回のケースに限って言えば、判断能力が不十分な長男に現預金を遺してあげることをおススメいたします。
今後生活して行く中で医療機関を始めとした様々なサポートが必要になるでしょうし、本人の生活を維持していくためにも現金は不可欠な存在です。
ただし、一点だけ注意していただきたい事として『遺留分』の存在がございます。
自宅不動産の価値:1500万円
預金:1000万円
亡くなった父親の遺産が上記の通りだったとします。
そして遺言書に書かれていた内容が
「自宅不動産を配偶者へ、預金を長男へ」という内容だった場合、長女が相続する分がありません。
この場合長女は自身の遺留分である312.5万円(遺産の1/8)を母と長男に対して請求することができるのです。
「長男は判断能力が不十分だから長女もわかってくれるだろう」と思っていても、実際に遺留分侵害請求をされてしまう可能性はゼロではありませんので、遺言書を書く場合は相続人の遺留分に配慮した上で、判断能力の不十分な相続人に最大限現金を遺せるような内容にしていただくのが良いでしょう。
今回のまとめ
後見制度=認知症というイメージが強いかもしれませんが、様々な理由によって後見人を必要とする方は存在します。
そんな方々の権利・財産を守るために後見制度は存在しますが、手続き一つとっても複雑であり、一般の方が気軽に利用できる制度とは言い難いでしょう。
もっとも、人の一生に係わることですので、気軽に利用できてしまうと様々な弊害も発生してくるでしょうから現行制度の運用についても納得できる部分は大いに存在します。
今回取り上げたケースの場合、親世代が全く対策を行わないでいると相続開始時に後見人が必要になって来るのに対し、最低限遺言書さえ用意しておけば、「遺産分割が出来ない…」という事態だけは避けることが出来ます。
その後、後見制度を利用して行くのか? については専門家も交えて家族間でゆっくり決めて行くことも可能です。
後見人に限らず、相続に関する手続きは後戻りできないものが多く存在しますので、もしご家族の中に判断能力の不十分な方がいらっしゃる場合は、今のうちから備えておくことを強くおススメいたします。
当事務所では後見人に関するご相談も受け付けておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
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